カオルがシル君の頭をむねに抱き込むのが好きっていう
二人掛けには少し大きいサイズのはずのソファーに、カオルとシルゲイが並んで座ると、程良い大きさに収まってしまう。
緑髪のミコッテが体の大きなアウラにもたれ掛かるようにして手元の本をのぞき込む中、体の大きなアウラ、シルゲイは呆然と本を閉じた。
学術書を買うことが多い彼が、久しぶりに購入したフィクションの小説を読み終わったのだ。学術書の合間を縫うように読んでいたから、読み終わるのに二月ほどかけていたが、物語の終盤の引き込みにあらがえず、今日の昼食後から一気に読み終わったところだった。
少しずつしか読んでいなかったが、時間がかかったぶん、隣に居続けたような気がした物語の主要キャラクターの一人であった犬が、死んでしまった。
物語はさわやかなハッピーエンドだったが、犬の死がシルゲイには思いの外大きなショックとなってしまったのだ。
あの犬もともに旅を終えるものと思っていたのに。
閉じた本の表紙をみるでもなく呆然としていたシルゲイの隣で、カオルがおもむろに立ち上がり、二人掛けソファーの背もたれの上に腰を下ろした。
視線の高さが逆転する。旋毛を軽く撫でるようにして髪をすき、その頭を胸のところに抱き込んだ。
身長差が大きすぎて、いつも見上げてばかりのカオルが最近覚えたシルゲイへの抱擁の仕方だった。
「カオル……。」
「よしよし。骨付き肉焼いてやるから。」
「うん…。」
抱きしめるカオルの心音を聞きながら、シルゲイは閉じた物語の表紙を撫でた。
あの犬にも、大きな骨付き肉、食べてほしかったなぁ、呟いた言葉をカオルが聞いていたのかわからないけれど、髪をすくように撫で続ける指が心地よかった。
PR