おすって×おすら
うちよそCP
うちよそCP
家に入る前から、もういい匂いがしていた。
旅先で昼食はしっかり食べたはずなのに、まだ夕暮れ時のこの時間、シルゲイの胃袋はもう空腹を訴えてくる。
台所に立って尻尾を揺らしながら鍋を混ぜるカオルの後ろ姿が脳裏をよぎった。
「ただいま。」
一応声をかけて家にはいるが、台所にいるからか、返事がない。
部屋中にミルクと食材を煮込んだ甘い匂いが立ちこめていた。
荷物をおいて匂いのもとをたどっていく。台所では脳裏をよぎった姿のまま、カオルが鍋を混ぜていた。
「カオル、ただいま。」
声をかけると、カオルは耳がぴくりと動かして振り返った。
シルゲイの姿を見て、目を細める。
「おかえり。」
カオルのしっぽがうれしそうに大きく揺れた。
それがうれしくて、シルゲイはカオルの後ろに立つと、彼の背中から腕を回す。
刃物を持っているときはさすがに怒られるが、鍋を混ぜているときは何も言わない。
自分の頭よりずっと下にある頭の上に顎を乗せる。
「おなかすいた…。」
「子供か!」
カオルは笑いながら、鍋で煮込んでいたシチューを、味見には大きすぎる茶碗に並々と注ぎシルゲイに渡した。
シチューを大事に両手で受け取って、スプーンも取りに行かずに直接飲む。
とろりとしたスープに、具材の甘みがしみていておいしい。
食べでがあるようにと、大きく切り分けられた人参を器を傾けて口に入れ齧る。
行儀が悪いとカオルがスプーンを差し出した。
「もう夕飯にできるけど、先に風呂に入るか?」
「ごはんにする……。」
「米?パン?」
「米!
「そいうと思った。」
シチュー鍋の隣にもう一つ、シチュー鍋よりは小振りの大鍋のふたをあける。
つやつやの米が湯気とともに顔を出した。
炊き立ての米の香りが二人を包む。
シルゲイの胃袋が、大きな音をたてる。
台所に二人分の笑い声が響いた。
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