・近未来パロss
・若干えぐい表現あり
・みつなりが動物園で展示される
・まさむねは飼育員
・若干えぐい表現あり
・みつなりが動物園で展示される
・まさむねは飼育員
悪趣味なもんだ。
政宗は新しく搬入された展示ケースを遠目に見ながら、舌打ちした。
導入を決めたのは園長ではなく、株の大半を握るスポンサーだ。
水族館で使われているのと同じ分厚いアクリルが光をゆがめ、はこの中はここからでははっきりとは見えない。
来い、と呼ばれたのはそのアクリル牢の裏側だった。そもそもこの一部、経営陣しか呼ばれていないはずの搬入式に、一介の飼育員である政宗が呼ばれたのは、他の職員たちより早く、彼を対面させる必要があったからだ。
観客たちが取り囲む裏側、呼ばれた場所には扉が備え付けられていた。透明なアクリルに反して黒々と光を拒絶する柵扉。その黒と黒の間から見えたのが、今回搬入された新しい「動物」だ。
銀の髪に白い肌、きりりと細い体つきは凛として、そのつり上がりぎみの目が政宗を睨んだ。
政宗は思わず一歩踏み出して、制止の声も聞かずに牢の中へ片手を伸ばした。
手のひらがぎりぎり通る程度の隙間、手首で引っ掛かり彼までは届かない。
柵の隙間から、彼が訝しげに政宗の指先を見ていた。表情の変化に満足して、政宗は唇をに、とつり上げた。
「俺は政宗。よろしくな。あんたは?」
アクリルのむこう、彼が何度か瞬きする。薄い唇が物言いたげに動くが声は聞こえなかった。
彼はやがて口を動かすのを止めて、扉へ歩いてきた。差し出された政宗の指先を舐めるように見てから一度首を振る。
政宗は指先を動かさずにそのままじっと待った。鉄格子に挟まれた手のひらと手の甲が、冷たい金属に体温を奪われて冷めていく。
「ま、いいさ。なあ俺アンタの世話役になるんだ。仲良くしようぜ、Ok?」
牢の中で彼が手を伸ばした。冷えた政宗の指先に触れた指は、思いの外節張っていて暖かかった。
指先だけを器用に動かして延びてきた指を握る。そしてもう一度「よろしく」と言うと彼が小さく頷いた気がした。
対面の後はすぐに別室へ案内された。
指先に彼の体温が残って静かに痺れ、そこから金属に吸われた体温がかえってくるようなきがした。
別室で渡された冊子は「説明書」とカツカツしたタイプ文字が並んでいた。
説明書、もちろんそれはアクリル牢の中の彼についてだ。
彼についての簡単な説明を受け、あれは高価だから大事に扱うようにとしつこく念を押された。
名前を尋ねれば、好きに呼べばいいと返された。
「おい、聞いてるか小十郎!」
「聞いてるって」
「ありえないだろ、なあ?!」
政宗が片手を持ち上げたのを見て、小十郎はさっとちゃぶ台の上の汁椀を持ち上げた。
政宗が力任せにテーブルを叩いて、取り残された政宗の汁椀がひっくり返る。
派手にこぼれ味噌汁がちゃぶ台を伝い、政宗の膝の上にこぼれた。
「shit!」
「いわんこっちゃない…」味噌汁を盛大にかぶって少々頭の冷えたらしい彼に台ふきを渡すが、まだ口の中でなにやらもごもご言っているようだ。
「世知辛いご時世だがな。任されたのがお前でよかったんじゃねえか」
無事だった自分の味噌汁を政宗に譲る。
政宗は味噌汁を吸った台ふきを洗い場に放り、渡された味噌汁を無言で啜った。
ぬるい。
ぬるい味噌汁をすすりながら、碗越しに小十郎をうかがい見れば、彼はすでに落ち着いた面持ちで焼き魚をつついていた。
碗が空になるまで一気に平らげて、今度は静かに碗を机に返した。
コトリ、小さな音が無言の二人の間に響く。
「喉を潰すってのは、やり過ぎの気もするな」
口を開いたのは小十郎の方だった。それは先刻政宗が息巻いて吐き出した事実。
搬入された銀髪の彼は、捕獲された時に言葉を溢さないよう喉を潰された。
話そうとしても、声帯自体にメスを入れられたため、それは音にならない。言葉を話すのは人の特権であるから、動物のそれが言語を話してはいけない。そういう事らしかった。
二人は無言で食事を終えた。空になった皿を片付けながら政宗がこぼす。
「名前くらい、あるはずだよなあ」
「聞けばいいだろ」
あまりに当たり前に返された言葉。
「だから、好きに呼べって言われたんだぜ」
「それはスポンサー側だろ。本人に直接訊け」
政宗は目を見開いて、見開いた片目から今にも鱗が落ちそうな。
「Thank you、小十郎、さすがだな!」
積んだ皿を持った小十郎の背中を平手で叩く。
小十郎がよろめいて避難の声をあげた。
翌日、政宗は普段にまして朝早く出勤した。
まだ誰もいない事務所から、作られたばかりの鍵を持ち出して園の奥へ走る。分厚いアクリルではなく、澄んだ防弾ガラスでできた檻へ彼は移されていた。
裏から鍵を開けて中へ入ると、まんじりともしなかった様子の彼が、檻の端にもたれている。
音に反応してこちらを見た彼の前まで駆け寄り、目線を合わせるために自分も座った。
「おはよう」
鋭い瞳で見返してくるばかり。
「なあ、アンタ、ちゃんと名前あるんだろ。教えてくれよ」
努めて笑顔で首をかしげた。彼は喉を抑えて首を振る。
名前を告げる意思はあるのだと確信し、政宗は彼に向けて手を差し出した。
「ここに書けよ」
銀の髪を揺らして首を傾げる。彼の手を取って引き寄せ、その手のひらに指で「ま、さ、む、ね」と書いた。
「俺の名前だ。アンタは?」
意味を理解したらしい。差し出された政宗の手のひらに白い指が乗る。
唇を書く文字の音に合わせて動かしながら「み」「つ」「な」「り」 そうしてもう一度「三成」と書いた。
「みつなり?」
確認のために復唱すると、彼は小さく頷いた。
「よろしくな、三成」
三成がもう一度頷く。
政宗は満足そうに笑って頷き返し、大事に抱えてきた風呂敷包みを開いた。
「食おうぜ、朝飯だ」
風呂敷の中から出てきたのは大きな弁当箱に詰められた二人分の朝食だった。
作ったのは出勤前の小十郎。朝が早すぎると文句を言いながらも作ってくれた。
色鮮やかな弁当箱を見下ろし、三成は首を振った。いらない、の意思表示か。政.宗は葱が焼き込まれた卵焼きを箸でつまみ上げて
「食えよ」
三成の唇に押し当てた。
三成は頑なに唇を引き結んで拒絶する。
彼の拳を握る手が僅かに震えているのが視界の端に入った。
震える手は力を込めすぎて血の巡りが悪いようだった。
政宗は頑なに閉じる唇から箸を離す。
「食わねぇと死ぬぜ?どうせ何日も食べてないんだろ?」
三成の唇に卵焼きの油がのってつやつやと僅かに潤いを取り戻したかのようだ。
三成は首を左右に振って、政宗の手首を掴んで引き寄せた。
引き寄せた手のひらに、引っ掻くような乱暴な仕草で文字を書く。
『お前が、喰え』
「なんだ、卵焼き嫌いかあ?」
『いいから喰え。喰ってみせろ』
政宗は肩をすくめて、卵焼きを自分の口に放り込んだ。まじまじと観察してくる視線に居心地の悪さを感じながらも咀嚼し飲み込む。
いつもの卵焼きだ。卵に刻んだネギが入っていて味付けは少し甘い。
「喰ったぜ」
政宗の手首を掴んだままの三成は何も言わない。
朝食は三成と食べるべく弁当にしてもらった政宗は、もちろんまだ先ほどの卵焼き以外何も口にしていない。
三成が何か反応を見せる前に、政宗の腹がなった。
「食わねぇなら、俺一人で喰うからな」
片手を捕まれたまま、本格的に食べ始める。
政宗は新しく搬入された展示ケースを遠目に見ながら、舌打ちした。
導入を決めたのは園長ではなく、株の大半を握るスポンサーだ。
水族館で使われているのと同じ分厚いアクリルが光をゆがめ、はこの中はここからでははっきりとは見えない。
来い、と呼ばれたのはそのアクリル牢の裏側だった。そもそもこの一部、経営陣しか呼ばれていないはずの搬入式に、一介の飼育員である政宗が呼ばれたのは、他の職員たちより早く、彼を対面させる必要があったからだ。
観客たちが取り囲む裏側、呼ばれた場所には扉が備え付けられていた。透明なアクリルに反して黒々と光を拒絶する柵扉。その黒と黒の間から見えたのが、今回搬入された新しい「動物」だ。
銀の髪に白い肌、きりりと細い体つきは凛として、そのつり上がりぎみの目が政宗を睨んだ。
政宗は思わず一歩踏み出して、制止の声も聞かずに牢の中へ片手を伸ばした。
手のひらがぎりぎり通る程度の隙間、手首で引っ掛かり彼までは届かない。
柵の隙間から、彼が訝しげに政宗の指先を見ていた。表情の変化に満足して、政宗は唇をに、とつり上げた。
「俺は政宗。よろしくな。あんたは?」
アクリルのむこう、彼が何度か瞬きする。薄い唇が物言いたげに動くが声は聞こえなかった。
彼はやがて口を動かすのを止めて、扉へ歩いてきた。差し出された政宗の指先を舐めるように見てから一度首を振る。
政宗は指先を動かさずにそのままじっと待った。鉄格子に挟まれた手のひらと手の甲が、冷たい金属に体温を奪われて冷めていく。
「ま、いいさ。なあ俺アンタの世話役になるんだ。仲良くしようぜ、Ok?」
牢の中で彼が手を伸ばした。冷えた政宗の指先に触れた指は、思いの外節張っていて暖かかった。
指先だけを器用に動かして延びてきた指を握る。そしてもう一度「よろしく」と言うと彼が小さく頷いた気がした。
対面の後はすぐに別室へ案内された。
指先に彼の体温が残って静かに痺れ、そこから金属に吸われた体温がかえってくるようなきがした。
別室で渡された冊子は「説明書」とカツカツしたタイプ文字が並んでいた。
説明書、もちろんそれはアクリル牢の中の彼についてだ。
彼についての簡単な説明を受け、あれは高価だから大事に扱うようにとしつこく念を押された。
名前を尋ねれば、好きに呼べばいいと返された。
「おい、聞いてるか小十郎!」
「聞いてるって」
「ありえないだろ、なあ?!」
政宗が片手を持ち上げたのを見て、小十郎はさっとちゃぶ台の上の汁椀を持ち上げた。
政宗が力任せにテーブルを叩いて、取り残された政宗の汁椀がひっくり返る。
派手にこぼれ味噌汁がちゃぶ台を伝い、政宗の膝の上にこぼれた。
「shit!」
「いわんこっちゃない…」味噌汁を盛大にかぶって少々頭の冷えたらしい彼に台ふきを渡すが、まだ口の中でなにやらもごもご言っているようだ。
「世知辛いご時世だがな。任されたのがお前でよかったんじゃねえか」
無事だった自分の味噌汁を政宗に譲る。
政宗は味噌汁を吸った台ふきを洗い場に放り、渡された味噌汁を無言で啜った。
ぬるい。
ぬるい味噌汁をすすりながら、碗越しに小十郎をうかがい見れば、彼はすでに落ち着いた面持ちで焼き魚をつついていた。
碗が空になるまで一気に平らげて、今度は静かに碗を机に返した。
コトリ、小さな音が無言の二人の間に響く。
「喉を潰すってのは、やり過ぎの気もするな」
口を開いたのは小十郎の方だった。それは先刻政宗が息巻いて吐き出した事実。
搬入された銀髪の彼は、捕獲された時に言葉を溢さないよう喉を潰された。
話そうとしても、声帯自体にメスを入れられたため、それは音にならない。言葉を話すのは人の特権であるから、動物のそれが言語を話してはいけない。そういう事らしかった。
二人は無言で食事を終えた。空になった皿を片付けながら政宗がこぼす。
「名前くらい、あるはずだよなあ」
「聞けばいいだろ」
あまりに当たり前に返された言葉。
「だから、好きに呼べって言われたんだぜ」
「それはスポンサー側だろ。本人に直接訊け」
政宗は目を見開いて、見開いた片目から今にも鱗が落ちそうな。
「Thank you、小十郎、さすがだな!」
積んだ皿を持った小十郎の背中を平手で叩く。
小十郎がよろめいて避難の声をあげた。
翌日、政宗は普段にまして朝早く出勤した。
まだ誰もいない事務所から、作られたばかりの鍵を持ち出して園の奥へ走る。分厚いアクリルではなく、澄んだ防弾ガラスでできた檻へ彼は移されていた。
裏から鍵を開けて中へ入ると、まんじりともしなかった様子の彼が、檻の端にもたれている。
音に反応してこちらを見た彼の前まで駆け寄り、目線を合わせるために自分も座った。
「おはよう」
鋭い瞳で見返してくるばかり。
「なあ、アンタ、ちゃんと名前あるんだろ。教えてくれよ」
努めて笑顔で首をかしげた。彼は喉を抑えて首を振る。
名前を告げる意思はあるのだと確信し、政宗は彼に向けて手を差し出した。
「ここに書けよ」
銀の髪を揺らして首を傾げる。彼の手を取って引き寄せ、その手のひらに指で「ま、さ、む、ね」と書いた。
「俺の名前だ。アンタは?」
意味を理解したらしい。差し出された政宗の手のひらに白い指が乗る。
唇を書く文字の音に合わせて動かしながら「み」「つ」「な」「り」 そうしてもう一度「三成」と書いた。
「みつなり?」
確認のために復唱すると、彼は小さく頷いた。
「よろしくな、三成」
三成がもう一度頷く。
政宗は満足そうに笑って頷き返し、大事に抱えてきた風呂敷包みを開いた。
「食おうぜ、朝飯だ」
風呂敷の中から出てきたのは大きな弁当箱に詰められた二人分の朝食だった。
作ったのは出勤前の小十郎。朝が早すぎると文句を言いながらも作ってくれた。
色鮮やかな弁当箱を見下ろし、三成は首を振った。いらない、の意思表示か。政.宗は葱が焼き込まれた卵焼きを箸でつまみ上げて
「食えよ」
三成の唇に押し当てた。
三成は頑なに唇を引き結んで拒絶する。
彼の拳を握る手が僅かに震えているのが視界の端に入った。
震える手は力を込めすぎて血の巡りが悪いようだった。
政宗は頑なに閉じる唇から箸を離す。
「食わねぇと死ぬぜ?どうせ何日も食べてないんだろ?」
三成の唇に卵焼きの油がのってつやつやと僅かに潤いを取り戻したかのようだ。
三成は首を左右に振って、政宗の手首を掴んで引き寄せた。
引き寄せた手のひらに、引っ掻くような乱暴な仕草で文字を書く。
『お前が、喰え』
「なんだ、卵焼き嫌いかあ?」
『いいから喰え。喰ってみせろ』
政宗は肩をすくめて、卵焼きを自分の口に放り込んだ。まじまじと観察してくる視線に居心地の悪さを感じながらも咀嚼し飲み込む。
いつもの卵焼きだ。卵に刻んだネギが入っていて味付けは少し甘い。
「喰ったぜ」
政宗の手首を掴んだままの三成は何も言わない。
朝食は三成と食べるべく弁当にしてもらった政宗は、もちろんまだ先ほどの卵焼き以外何も口にしていない。
三成が何か反応を見せる前に、政宗の腹がなった。
「食わねぇなら、俺一人で喰うからな」
片手を捕まれたまま、本格的に食べ始める。
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