トシキさんのツイートを読んであらぶりすぎて書いてしまった。
トシキさんツイートSS化的な。
トシキさんツイートSS化的な。
「牛尾さん、いつもの岬のところに、小さい保育園あるじゃないですKa。あそこ、いきましょうYo」
「保育園?」
虎鉄は声が震えそうになるのを懸命に飲み込んで、牛尾の手を取った。
手袋と手袋を間に挟んでいるのに、冷たいと感じてしまう手のひら。
もしかして冷えてしまっているのは自分なのかもしれない。
心臓から全部血液が抜けてしまったような心地。気を抜くと、歩き方さえ忘れてしまいそう。
脈絡の無い会話を飲み込めない様子の牛尾は、虎鉄に手を引かれるまま助手席に座った。
夜の街頭に照らされた街を抜け、窓から漏れる部屋の明りがまばらになった住宅街を抜けると、紺色敷き詰めた夜空に悲しいほど美しい星が瞬いている。
「保育園、キリスト系の私立みたいなんですYo。保育園なのにチャペルがあって、ステンドグラスが十字架の形なんでSu。」
「よく、見てるね。」
「だって牛尾さんのお守りと同じ形だかRa。」
牛尾の手が自然胸元を手繰る。
今日のために両親が用意した、念入りに布を重ねた上等のスーツの下で、昔から変らずそこにあるクロスをなぞる。
今日、婚約が決まった。
最後の最後まで断る機会を探していた。
それでも、牛尾家の存続をここで止めるわけにはいかないと、体を壊した母に遺言のように言われてしまっては、反対を唱えることは出来なかった。
結婚相手は両親の知人の紹介で、華族から続く由緒正しい家系の令嬢だ。
指の先まで丁寧に育てられたのがわかる、美しい女性だった。
彼女と、今日、婚約した。
牛尾は両家の両親、それから婚約者と分れ、仕事があるからと急ぎ足で無我夢中でやってきたのが虎鉄が一人暮らすアパートの部屋の前だった。
虎鉄は扉を開けたとたん膝をついた牛尾に戸惑いながらも、懺悔する様に告げられた言葉を無言で飲み込んでいた。
牛尾が続く言葉を失ったとき、まるで明日のでかけさきでも決めるかのような口調で
「岬に行きましょう」
虎鉄が沈黙を破ったのだった。
車が停まった。
扉を開けると汐の香が届く。
人気の少ない小さな砂浜だった。
ごろごろとところどころに不恰好な石が転がり、とても観光客を呼び寄せるような美しい砂浜とはいえないが、二人にとっては思い出を重ねてきた愛しい場所だ。
高校を卒業して、お互いの予定をかみ合わせるのが難しくなってから、時間を関係なく会える場所で、できるだけ二人しか来ない場所をさがしてたどり着いた。
汐の香を胸に吸い込む。
「あそこですYo」
虎鉄が指を差す先に、明りの消えた保育園があった。
砂浜に二人の足跡を刻みながら歩いていくと、確かに海に面した壁に、大きなステンドグラスの十字架が見える。
「外から勝手に借りる形でかっこわるいですけDo、牛尾さん、ここで結婚式しましょうYo。俺と牛尾さんの、最初で最後の、おしまいです。」
指輪は無いですけど、と大仰に肩をすくめる虎鉄に、牛尾は、たぶん、何とか笑えていたと思う。
月と星だけに囲まれて、二人は誓いの言葉をつむいだ。
神父はいない。いまいちうろおぼえの式の流れを、あいまいな記憶を掘り起こしながら進めていく。
「健やかなる時も、病める時も、愛し続けることを誓いますか」
「誓いまSu。御門、健やかなる時も、病める時も、愛し続けることを誓いますKa?」
「ち、かいます」
「それでは、指輪の交換を」
虎鉄が牛尾の手を引き寄せる。
月に手を伸ばして、月の輪郭をくりぬく様に指を丸める。
牛尾の薬指にその丸めた指を通し、唇を当てた。
当てた唇が離れると、その上に、涙が。
「虎鉄君、」
「牛尾さん、俺にも指輪、ください」
「こてつくんっ」
「ね?」
顔を上げると、淡い光に浮かび上がって、今にもこぼれそうな涙をこらえる虎鉄が笑っていた。
牛尾は涙を流しながら、虎鉄の指に、誰に渡すよりも大切に、見えない指輪を通した。
虎鉄をまねて、その指の上にキスをする。
「神と精霊のもと、俺たちは、夫婦と、なりまし、Ta」
ついに虎鉄の目から涙が落ちた。
ぱたりぱたりと音を立てて、冬用の分厚いコートの上にこぼれる。
牛尾も虎鉄の手を強く握ったまま声もなく泣いた。
こんなにも涙がこぼれるのだと初めて知った。
「牛尾さん、ずっと、愛してます」
「ぼくも、誰より、君の事を」
「幸せになってくださいね。俺、牛尾さんの子供、抱きに行きますから」
「愛してる」
やがて月が水平線の向こうに消えて、朝日が二人を染め上げる頃、冷え切った体を寄せ合って車に戻った。
最初で最後の、さようなら。
「保育園?」
虎鉄は声が震えそうになるのを懸命に飲み込んで、牛尾の手を取った。
手袋と手袋を間に挟んでいるのに、冷たいと感じてしまう手のひら。
もしかして冷えてしまっているのは自分なのかもしれない。
心臓から全部血液が抜けてしまったような心地。気を抜くと、歩き方さえ忘れてしまいそう。
脈絡の無い会話を飲み込めない様子の牛尾は、虎鉄に手を引かれるまま助手席に座った。
夜の街頭に照らされた街を抜け、窓から漏れる部屋の明りがまばらになった住宅街を抜けると、紺色敷き詰めた夜空に悲しいほど美しい星が瞬いている。
「保育園、キリスト系の私立みたいなんですYo。保育園なのにチャペルがあって、ステンドグラスが十字架の形なんでSu。」
「よく、見てるね。」
「だって牛尾さんのお守りと同じ形だかRa。」
牛尾の手が自然胸元を手繰る。
今日のために両親が用意した、念入りに布を重ねた上等のスーツの下で、昔から変らずそこにあるクロスをなぞる。
今日、婚約が決まった。
最後の最後まで断る機会を探していた。
それでも、牛尾家の存続をここで止めるわけにはいかないと、体を壊した母に遺言のように言われてしまっては、反対を唱えることは出来なかった。
結婚相手は両親の知人の紹介で、華族から続く由緒正しい家系の令嬢だ。
指の先まで丁寧に育てられたのがわかる、美しい女性だった。
彼女と、今日、婚約した。
牛尾は両家の両親、それから婚約者と分れ、仕事があるからと急ぎ足で無我夢中でやってきたのが虎鉄が一人暮らすアパートの部屋の前だった。
虎鉄は扉を開けたとたん膝をついた牛尾に戸惑いながらも、懺悔する様に告げられた言葉を無言で飲み込んでいた。
牛尾が続く言葉を失ったとき、まるで明日のでかけさきでも決めるかのような口調で
「岬に行きましょう」
虎鉄が沈黙を破ったのだった。
車が停まった。
扉を開けると汐の香が届く。
人気の少ない小さな砂浜だった。
ごろごろとところどころに不恰好な石が転がり、とても観光客を呼び寄せるような美しい砂浜とはいえないが、二人にとっては思い出を重ねてきた愛しい場所だ。
高校を卒業して、お互いの予定をかみ合わせるのが難しくなってから、時間を関係なく会える場所で、できるだけ二人しか来ない場所をさがしてたどり着いた。
汐の香を胸に吸い込む。
「あそこですYo」
虎鉄が指を差す先に、明りの消えた保育園があった。
砂浜に二人の足跡を刻みながら歩いていくと、確かに海に面した壁に、大きなステンドグラスの十字架が見える。
「外から勝手に借りる形でかっこわるいですけDo、牛尾さん、ここで結婚式しましょうYo。俺と牛尾さんの、最初で最後の、おしまいです。」
指輪は無いですけど、と大仰に肩をすくめる虎鉄に、牛尾は、たぶん、何とか笑えていたと思う。
月と星だけに囲まれて、二人は誓いの言葉をつむいだ。
神父はいない。いまいちうろおぼえの式の流れを、あいまいな記憶を掘り起こしながら進めていく。
「健やかなる時も、病める時も、愛し続けることを誓いますか」
「誓いまSu。御門、健やかなる時も、病める時も、愛し続けることを誓いますKa?」
「ち、かいます」
「それでは、指輪の交換を」
虎鉄が牛尾の手を引き寄せる。
月に手を伸ばして、月の輪郭をくりぬく様に指を丸める。
牛尾の薬指にその丸めた指を通し、唇を当てた。
当てた唇が離れると、その上に、涙が。
「虎鉄君、」
「牛尾さん、俺にも指輪、ください」
「こてつくんっ」
「ね?」
顔を上げると、淡い光に浮かび上がって、今にもこぼれそうな涙をこらえる虎鉄が笑っていた。
牛尾は涙を流しながら、虎鉄の指に、誰に渡すよりも大切に、見えない指輪を通した。
虎鉄をまねて、その指の上にキスをする。
「神と精霊のもと、俺たちは、夫婦と、なりまし、Ta」
ついに虎鉄の目から涙が落ちた。
ぱたりぱたりと音を立てて、冬用の分厚いコートの上にこぼれる。
牛尾も虎鉄の手を強く握ったまま声もなく泣いた。
こんなにも涙がこぼれるのだと初めて知った。
「牛尾さん、ずっと、愛してます」
「ぼくも、誰より、君の事を」
「幸せになってくださいね。俺、牛尾さんの子供、抱きに行きますから」
「愛してる」
やがて月が水平線の向こうに消えて、朝日が二人を染め上げる頃、冷え切った体を寄せ合って車に戻った。
最初で最後の、さようなら。
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