Twitterでみた昔後輩がカレーもらいに来た話をシル君で見たかった
【カオシル/つきあう前の時間軸】
鍋の蓋を開けると、蒸気にのってスパイスの香りが部屋に満ちる。カオルはカレーを作っていた。
出先で通りかかった店からカレーのスパイスの匂いが鼻をくすぐり、その瞬間から絶対にカレーを食べたい、という衝動が抑えられなかったのだ。
ギルドから依頼された品を両手に抱えていたから、その場で店に入ることがかなわなかった。
納品の後、報酬を握りしめ、その足で材料を買いに走り、帰宅したと同時に食べたい衝動のまま、カレーを仕込んだ。
自分が一人暮らしで在ることも、今日来客の予定がないこともすっかり忘れ、台所にある一番大きい鍋一杯に、ともすれば材料を入れすぎてこぼれそうになるほどに仕込んだ。仕込みすぎた。
こぼれないように全身の神経を使ってそっとかき混ぜ続けたカレーは、鍋の中でつやつやと美味しそうに煮立っていた。
帰宅して一度取り外したリンクシェルを耳につけ、ここに登録されているヒカルに向けてメッセージを吹き込む。
「カレー、作りすぎたから取りに来いよ」
今ヒカルがどこで何をしているかわからない。
とりあえず鍋の火を止めて、自分が食べる分の米とカレーを皿に盛る。
一皿取り分けた分、余白ができた鍋に蓋をして念願のカレーを口にしようとしたところで、呼び鈴が鳴った。
近くにいたのだろうか、ヒカルがもう来たものだと思って玄関のドアを開けると、そこにたっていたのは背の高い男のアウラだった。
ヒカルも、背が高く見上げないといけないアウラではあるが、いたのはヒカルではなく
「シルゲイ…?!どうした?」
「カオルさんが、カレー取りに来いって…」
耳に付けたリンクシェルを示すように視線を巡らせる。
リンクシェルを指で指さないのは、指さないのではなくさせないのだ。
かれの大きな体の大きな手には、ご飯を盛ったどんぶりが乗っていた。
「…俺、もしかしてリンクシェル送る先間違えたか?ヒカルにいったつもりだった」
「こないだヒカルさんが便利だからって俺も入れてくれました」
「あいつそんなことするのか…」
呆気にとられて玄関先で話していると、突然シルゲイの腹から、ぐーーーっとはげしい空腹の主張があった。
カオルは思わず吹き出して
「あがれよ、俺も今から食べるところだ。」
ようやくシルゲイを部屋に入れた。腹の虫がないたからか、気持ち小さくなって見える彼の持っているどんぶりに、かけられるだけカレーをかけて、家にある一番大きいスプーンを渡してやった。
「せっかくだから食べてけよ、米もあるからお代わりしていいし」
そういうと、表情に乏しい肌の白いアウラの目が、ぱっと見開いて輝くのがわかって、ますます口元がほころぶ。
テーブルについたシルゲイに冷えた茶をついでやりながら
「それはそとして、シル、普通カレーとりにこいって言われたら、皿じゃなくてタッパーもってくるもんだぞ」
「?!そうなんですか…?すみません…あんまりこういうこと…経験なくて…」
「いいよ、おもしろかったし。」
座ったまま詫びて頭を下げてもカオルより座高が高い。カオルも笑いながらようやくカレーを食べ始めた。
おわり
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