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[ 2024/11/25 03:56 | ]
【政三】ハンバーグが食べたい【CC福岡33無配】
※現パロ
※伊達政宗×石田三成
※政宗が三成に振り回される感じ。三成にベタ惚れ。
※この物語はすがすがしいほどにフィクションです。実在の人物、団体等
とは無関係です。





突然、本当に突然。それはまるでおはようの挨拶をするような自然さを持って三成の口から漏れた。
「ハンバーグが食べたい。」
「What?今日の夕食で食べただろ?」
 三成はオーバーリアクションで騒ぐ芸人の耳では聞き取りにくい発言がやたらに大きな字幕で流れているのを読むでもなく眺めながら、首をかしげた。
「少し違う。」
「味が不満か?」
 政宗は自分が思っていた以上に胸がざわついて、む、と唇をとがらせた。テレビから政宗へ視線を転じた三成が、ほろ苦く笑って首を振る。
「味は好きだ。」
 だろうよ、と政宗の頭になめたように綺麗になった皿が浮かんだ。洗ったか洗わなかったか、皿のすみに残ったソースを見つけるまでわからなくなるくらいの見事な完食だった。では、何が不満だというのだろうか。腕を組んで考え込んだ政宗に、三成はいつもつり上がり気味の眉を下げて、小さくわびた。
「味じゃなければ、何が不満なんだ?」
「不満と言うよりも、違和感だ。口触りが、違う気がする。」
 口触り、政宗は一時間ほど前に食べた自作のハンバーグを口に入れた瞬間を思い出しながら、ますますもって首をかしげた。

 そんなことがあったのはかれこれ一週間ほど前だったように思う。
 政宗と三成が同居を初めて久しい。大学で元親という共有の友人を介して知り合ったのだが、年月を重ねるにつれて元親抜きでも随分と、結果元親を驚かせるほどの親しい仲にまでなったのは在学中の話。
 互いの距離が近づいた分、いや、近づかなくてもおおよそ知っていたのだが、三成の食生活の雑さには目を見張るものがあった。
 政宗や元親と外食するときはまだいい。家で食事をするにあたって、コンビニで買ってきたパンを朝晩、しかも食パンだけだ。せめて暖かい物を食べろと言えば、無洗米の米を買ってきて、炊いた米だけ。主食だけではだめだと言えば、昼はお前達と外で主食以外の物も食べているだろう、と返された。
 見かねた政宗が三成が一人暮らしをする部屋に、自分の家で作った総菜を持って押しかけるようになってから、やがて面倒になって三成の台所でに立つまでそう時間はかからなかった。台所を中心に、三成の部屋に政宗の私物が増えていき、最終的に三成の
「朝もお前の味噌汁が飲みたい。」
 という一言で同居が始まったのだ。
 とりあえずは元親にだけ報告してあるのだが、驚くどころか二人の肩をたたいて涙ぐんでいたような気もする。ほとんど成り行きで同居に至った二人としては、元親の予想外の反応に照れだとか驚きだとかを通り越して、呆れてしまったのも懐かしい。
 今まで三成は政宗が作る食事について、何も不満をこぼしたことがなかった。思えばこれが初めてかもしれない。そう思うと放っておくのが悔しくなって、毎日今日の夕食の食材と別に挽肉コーナーに立っては腕を組む日々が続いていた。
 国産、輸入品、ミンチ、荒ミンチ、豚挽肉、牛挽肉、牛豚併挽肉、鶏挽肉。一つ一つ手にとっては戻し、手にとっては戻しするが、何もいいアイディアは浮かばない。代わりに大きなため息が出た。
 一週間毎日夕食にハンバーグを出して試行錯誤している様が三成に見えてしまうのは悔しいので、ここ一週間試作したハンバーグは政宗の弁当という形で消費されている。上にチーズをのせてみたり、塩こしょうを加減してみたり、ハーブを混ぜ込んだりしてみたが、結局ハンバーグはハンバーグでしかないわけで、いい加減飽きてきた。
 今日は三成が出張で留守だから、大量にハンバーグを試作して片っ端から食べてみようかと思っていたが、朝ハンバーグを焼き、昼ハンバーグを食べ、夜もハンバーグを焼くのかと思うとうんざりして、違う物をカゴに放り込んだ。
 挽肉を横目にため息をつくと、
「よう、こんなところで何やってんだ?」
 おもむろに元親がカゴの中をのぞき込むように声をかけてきた。政宗が手にしているカゴの中には、ほうれん草、ところてん、鯵(あじ)の開きと今日のメニューがうかがい知れる品がそろっている。
「口触りを求めて…」
 元親を振り返った政宗の眉間には、くっきりと皺が刻まれていた。
「口触りぃ?」
 まったく理解できない様子の元親の手にぶら下がっているカゴの中には、缶ビールとミミガーが入っていた。
「元親、今日は家で一人呑みか?」
 がっしりと元親の買い物かごを掴んでにらみあげる。その勢いに思わず元親の大きな体が揺れた。
 どうなんだ、と食いかかる政宗に、ああ、一人だと状況を飲み込めないまま頷くと、政宗は元親のカゴを奪って、自分のカゴの中身を棚に戻し始めた。
「おごるし、つまみも作ってやるから、付き合え。」
 カゴを奪われ、さっさとレジで財布を取り出してしまった政宗の勢いに押されて、元親は首を縦に振らざるを得なかった。



 元親は政宗が用意したことによって突然品数も質も量も増えた料理を肴に、ビールをあおった。
 政宗が包丁を握っている間も眉間に皺を寄せたままなのは初めて見たような気がする。
 そういえば最近、会社でも何かと甘えた声をかける女性が、政宗を遠巻きにしていたのはそうか、これのせいか。
 などと納得したところで、政宗がため息とともに口を開いた。
 何故政宗が口触りを求めて眉間に皺を寄せ挽肉コーナーに長居することになったのか。
 政宗の懸命さがこの年になって人ごとながら照れくさく、元親は頭をかいてむずがゆさをごまかした。
「愛されてんなあ、三成……。」
「当たり前だろ、俺が惚れたんだ。」
 コップに残ったビールを一気に飲み干して、次の缶を開けた。
「たまのわがままくらい、聞いてやりたいだろ。」
 元親も新しい缶のプルタブを開けて、コップに注がずにそのまま缶に口をつけた。
 自分自身も料理はするが、自分の口にあって腹にほどよく収まればいいと思っているので、政宗のようなこった料理も出来ないし、三成が言う口触りとやらを気にしてまで料理をすることはそうそう無い。
 ちびちびと泡をなめながら、
「挽き肉とブロック肉を刻んだのとを混ぜたらどうだ?」
「俺も最初にそれ、試したんだけど違ったんだ……。」
 政宗の箸から持ち上げかけていた冷や奴がするりと落ちる。皿に落ちた弾みで、つるりとした側面がもろく崩れた。まるで彼の今の心の内のようで、元親は苦笑する。
 政宗もつられるように唇を歪め、散らばったネギを冷や奴にのせ直し始めた。
「おいしい、は味だけじゃねぇだろ。あいつがわざわざ言うくらいだから、多分大事なモンとつながるハンバーグなんじゃねぇかって思うんだ。例えば三成が子どものころ食べてた、とか。」
 冷や奴にネギをのせ終わり、今度は無事口に運び終える。豆腐の優しいほの甘さが口に広がった。豆腐に集まっていた政宗の意識を散らすように、元親の携帯電話が体を震わせながらけたたましく鳴る。
 元親は軽くわびて携帯を開き、電話をかけてきた相手の名前を確認して、政宗に向かって親指を立てた。
「やったな、政宗!そのハンバーグの正体がわかるぜ!」
「What?どういうことだよ。」
 身を乗り出した政宗を尻目に、元親は電話に出た。
「よう、家康、ちょうどいいところに!」



 家康は電話をかけたが最後、元親の家に強制招集された。家康は、三成と共に養子として暮らしていた、三成の言わば義兄弟だ。同じ屋根の下で、同じ食卓を囲んだ彼であれば、知っているだろうと元親が呼び出したのだ。
 仕事柄出張で家を空けることが多いらしい家康は、今回の長期の出張からもどった報告と、土産を元親に渡したい旨の連絡のために電話をかけたらしいが、元親が頑なに今日持って来いと譲らず、いくつもの公共交通機関を乗り継いでやっと帰ってきた疲れた体に鞭打ち、さらにタクシーに乗って元親のアパートまで来ることとなった。
名前はよく聞いていたが、こうして面と向かって話をするのは、そういえば初めてだったように思う。大学は同じで、元親と一緒にいるときに、軽く挨拶を交わした程度の、いわゆる顔見知りではあった。
 本当に戻ってきたばかりだったらしい彼は、スーツのまま元親の家に現れ、ネクタイだけ外して、勧められるまま実にうまそうにビールを飲んだ。
「仕事の後のビールは、やはり最高だな!」
 ビールのコマーシャルの俳優にも負けない爽やかさで口元をぬぐう笑顔が、まるで太陽のようにまぶしい。
三成の身内の登場に、元親が電話を切った直後は若干肩をこわばらせた政宗だったが、全くの他人ではないし、自身人見知りをする性質ではない。なにより、登場した家康の気さくさに、たちまち気持ちがほぐれていった。
「三成の好きな料理かあ……。」
 政宗が作り足した料理を片っ端からうまいうまいと平らげた家康は、事の次第を我ことのように紳士に聞いて、考え始めた。
「三成は、そう食にこだわりのある男じゃないからなあ。」
 元親と政宗がそろって首を縦に振る。
 料理を口にしては実に幸せそうに目を細めていた家康だったが、今その顔は悩ましげに歪んでいる。
 腕を組んで、軽くうつむき、目を閉じてうんうんうなっていたが、額に若干汗が浮いたところで、はっとしたように顔を上げた。
「だが今回はハンバーグのはなしなんだろう?」
「That’s right!今回はハンバーグの話だ。」
 それなら、と家康が胡坐を組みなおし、膝をぽんと叩いた。
「うちの養父が作っていたハンバーグの作り方ならわかる。三成の誕生日のときは、必ずそのハンバーグだった。」
「「それだ!」」
 政宗と元親は声を揃えて家康の肩を掴み身体を乗り出した。
 二人分の体重で傾いた体を太い腕で支えながら、家康は近い近いと苦笑した。



 毎日丁寧に掃除をしているシンクにずらりと並ぶハンバーグの材料。政宗はまず玉ねぎをいつもより荒いみじん切りにした。量もいつもより多め。みじん切りにした玉ねぎを水にさらす。いつもならこれを炒めるところだが、家康から教わった方法では、生のまま種に混ぜるということだった。この大きさのものを種に混ぜて焼けば、おそらく玉ねぎの芯が残ったハンバーグが焼けるはずだ。三成の言っていた口触りの違いというのは、凡そこれによるところが大きいだろう。
 生のまま使う分、水にさらすとはいえ辛味が残らないように充分水にさらす。その間に、次の食材を手に取った。
 おからなら、使ったことがあるが、これは思いもよらなかったなあ……。
 政宗は目の細かいおろしがねで、久しぶりに買った高野豆腐を削った。
 普段ハンバーグを作るときは絶対に用意しない材料だ。
三成が幼少時食べていたハンバーグ、玉ねぎを炒めず使う、それからもう一つは、パン粉の代わりに高野豆腐をつなぎにするというものだった。
小さい高野豆腐をいくつも削り終えると、合挽き肉を大き目のボールに出した。
そこへ削った高野豆腐と、卵を使わず豆乳で種を馴染ませていく。種をこねて粘り気が出たら、いつものハンバーグより大きい、手のひら一杯のサイズで成型し、熱したフライパンに乗せた。
二人暮らしに丁度いいフライパンは、大きいハンバーグを二つ入れてしまえば一杯一杯だ。くっつかないようにフライ返しで隙間を作りながら、一つずつ焼けばよかったと後悔したが今更である。
両面が狐色に焼けたところで火をぐっと弱め、蓋をして蒸した。



 三成は食卓に並んだ料理を見て目を見張った。
 手のひら一杯の大きなハンバーグは、いつものソースではなくケチャップが乗っていた。箸を入れるまでもなく、おいしそうな焼き目からは、ごろりという効果音が聞こえてきそうな新みじん切りの玉ねぎが、熱をうけて艶めいていた。
「政宗、これは……」
 動揺を隠せない三成の手に箸を持たせる。
「喰おうぜ。」
 二人で手を合わせていただきます、と唱えたものの、政宗は三成の様子が気になって、すっかり手が止まっていた。
当の三成は、唇に仄かに笑みを浮かべ、皿の上に堂々と横たわっているハンバーグにそっと箸を入れる。懐かしむように丁寧に湯気の立つハンバーグを割ると、中のふっくらとした断面が見えた。大きめに刻まれたタマネギが、つやつやと自己主張している。肉汁はあまりこぼれてこないが、口に入れて噛むと、じんわりと肉汁がしみて、肉汁を纏ったタマネギがしゃく、と小気味よい音を立てた。
 三成は目を細め、惜しむように何度も租借すると、ハンバーグを飲み込んだ。
 自分の皿には手をつけずに、三成の指が箸を持ち、その箸がハンバーグを切り分け、口に運び、租借し、白いのど仏が上下するのをじっと見ていた政宗に、三成が視線を向ける。
「ありがとう、政宗。」
 ほろりと口元を綻ばせた三成の表情に、政宗は自然笑顔がわき上がった。
「お口にあって何よりです、Honey?」
 政宗がおどけて言うと、
「負けっぱなしだと思っていたが、今回は本当に完敗だ。」
 笑った。
 俺にこんなものを作らせている時点で、三成の圧勝だろ、と胸の中でこぼし、政宗も食事を始めた。
「政宗、もう直ぐ、私の養父の命日なんだ。」
 ほろりと溜息のような告白を、政宗は静かに受け止めた。三成がこの料理を食べたいといった理由、政宗の胸のうちですとんと収まった。
「このハンバーグ、どうしてわかった?」
「家康に教えてもらった。」
「そうか、家康、帰っていたのか。」
 彼が長期の出張から戻ってきたのは、おそらく命日にあわせたのだろう。そういえばあの後、一週間しないうちにまた戻るというようなことを言っていた。
「政宗、一緒に墓参りに来てくれないか。」
 政宗は箸をおいて、かしこまって座りなおした。
「いや、逆だぜ。俺も、挨拶に行かせてください。」
 両腿に手をついて、座ったままだが頭を下げる。男にしては長い髪が、さらりと肩から滑り落ちた。
「ああ、よろしく頼む。」


おわり。
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[ 2014/10/29 07:29 | Comments(0) | 政三 ]

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